【成果報告】遺伝性血管性浮腫(HAE)での調査結果について報告する論文の紹介

RUDY JAPANでは、患者さんに自ら質問票に回答してもらうことで、患者さんの情報を集めてきました。さらに、患者さんと研究者が議論を重ね協働することで、両者の視点を反映した効果的な医学研究を実現してきました。

私たち研究チームは、RUDY JAPANで行われている遺伝性血管性浮腫(HAE)に関する質問票調査の成果をまとめ、論文を発表しました。RUDY JAPANでは2017年から登録受付を開始し、定期的に登録者の方に質問票に回答いただいてきました。この論文は、回答データの分析結果を報告する、初めての論文となります。この論文は、世界中の人に読まれることを目的に、全て英語で書かれています。

いつも協力してくださっている登録者の方にも成果をお伝えしたく、以下に、その論文のサマリー(どのような論文内容かを簡潔に紹介するもの)を掲載します。


【論文タイトル】

Survey of hereditary angioedema episodes and quality of life impairment through a patient-participatory registry

邦訳「遺伝性血管性浮腫の発作および生活の質の障害に関する患者参加型レジストリを用いた調査」

全文はこちら:https://doi.org/10.3389/jcia.2024.12626


【サマリー(簡潔な論文紹介) 】

遺伝性血管性浮腫(HAE)は患者の社会生活や日常生活に大きな影響を及ぼす疾患です。
私たちは、この病気が患者の生活に及ぼす影響をより深く理解するために、「RUDY JAPAN」上で質問票調査を行いました。

今回の調査では、2019年1月から2021年3月までにRUDY JAPANに登録した遺伝性血管性浮腫を持つ患者13人のデータを解析しました。
対象となったデータは、RUDY JAPAN上で回答された、「発作の記録」(生じた発作の詳細を記録する質問票)と、「腫れを繰り返す患者の生活の質についての質問票(AE-QoL)」についてのものです。
合計58回の発作が登録され、AE-QoLについては延べ24回の回答が登録されました。

回答を分析した結果、本研究によって初めて以下のような内容が明らかになりました。

  • 発作は、およそ6:00から7:00の間と16:00から20:00の間で最も多く発生していました。 通勤や仕事帰りなど、人々が最も活動的な時間帯と一致していました。
  • 58回の発作のうち、38回が薬剤で治療を受けていました。うち、24回は患者の自宅で治療が行われました。
  • 一方、全体の約1/3にあたる20回の発作について、患者は治療を受けていませんでした。治療を受けない理由として最も多かったものは、症状が軽いと感じ、病院に行くことをためらったことでした。しかし、HAEの発作のガイドラインでは早期の治療が推奨されています。自己治療が広く普及すれば、このようなためらいはなくなると想定されます。
  • QOLの調査からは、「疲労/気分」および「恐怖/羞恥心」のQOLが低いことがわかり、明らかな症状がなくても患者はかなりの不安と恐怖を抱えていることが示唆されました。

以上の内容は、患者自身がいつでも気軽にデータを入力でき、また質問票(「発作の記録」)の作成にも患者の視点が取り込まれたRUDY JAPANの研究だからこそ明らかになったと考えられます。

遺伝性血管性浮腫(HAE)は、最近治療環境の改善が著しく、発作の長期予防薬も登場しています。これを受けて、患者のQOLが改善されることが期待されています。
患者のQOLや症状がどのように変化していくのか、今後もRUDY JAPAN上で調べていくことで、疾患が患者に与える影響についてのよりよい理解につながることが期待されます。


【担当した研究者・森桶聡助教(広島大学)のコメント 】

今回の調査規模は小さいながらも、患者さんが直接的かつ積極的に調査に参加する形で病気の実態についての情報を登録したものを解析しました。患者と研究者との共同作業で、より実情に迫るデータを発信できたと感じています。